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排煙設備概要


排煙設備とは

(公開 2021/03/26)

 1. サマリー

 排煙設備は建物内に充満した煙を建物外部に排出する機能をもつものであり、適切な保守管理の義務が建物所有者等に課されている。しかし、排煙設備という言葉は消防法と建築基準法の両者に見られる言葉であり、お互い重なりあいつつも、微妙に異なっている。建物所有者は、法令違反をすることのないよう、設備の知識だけでなく、法的な要請についても詳しい者に建物の維持管理を任せるべきであろう。


 2. 目次


 3. コンテンツ

# 排煙設備とは

排煙設備とは、火災により発生した煙を効率よく建物外部に排出するために設けられた特殊な通気孔である。火災による死者が発生した場合、その死因で最も多いのは火傷であるが、次いで多いのは一酸化炭素中毒や窒息、すなわちガスを吸引することによるものである。煙が充満した居室は視界が悪くなり数cm先も見えなくなる。また、その煙は高温でもあるため、建物利用者にとって非常に危険な存在なのである。そのため、煙を外部に排出することは、建物利用者の安全を考えると非常に重要な手続きになると言える。


普段は使わず、その存在を知る人も少ない排煙設備であるが、有事の際は非常に重要な意味を持つため、適切に整備及び点検をして維持管理していく必要があると言えよう。


排煙設備は大別すると自然排煙と機械排煙の2種類の設備がある。自然排煙とは窓のように、開放することで空気が流入及び排出される力を利用するものである。一方機械排煙とは、窓が設けられない場所等に対し、排煙口と風道、そして排煙機をセットとして、機械の力により建物内の煙を屋外に排出するものである。


排煙設備は災害時の人命に関わる設備であるため、当然のことながら定期的な点検とその報告の義務が建物関係者に課されている。


# 消防法と建築基準法の二重要請

「排煙設備」という言葉は、実は消防法と建築基準法の2つの条文で登場する。消防法は施行令第28条、建築基準法は施行令第126条となっている。ここで当然、「それぞれの排煙設備は何が違うのか」という疑問が多くの人に浮かび上がると思われる。その疑問について、真っ向から簡潔に答えるのは難しい。それぞれは設置する目的が違い、設置要件や設備に求められる性能の規定も違う。しかし、排煙という機能は一緒であり、両法を同時に満たす設備であれば一つで兼ねることもできる。しかし、やはり根拠法令が別なので、行政の管轄は違い、点検報告先も異なる、というなんとも面倒な設備なのである。


多くの人が勘違いしているのは、排煙設備は建築基準法に基づくものであり、消防法とは関係がないという認識である。これは建築基準法に基づく排煙設備の方が一般的に有名だからなのであるが、上述のとおりその認識は違う。建築基準法に基づき、排煙設備が必要ないと判断された建物も、実は消防法で必要ということもケースとして見かけられる。そして、逆もまた然りである。


そもそも、このように2つの法律で同じ設備が登場するのは、それぞれの法律が異なった目的を持っているからである。排煙設備の「煙を建物外に排出する」という機能は同じでありがなら、「何のために排出するのか」が違うのである。消防法は「消防隊が活動しやすくするため」、すなわち、建物利用者が避難した後、建物内に侵入する消防隊が視界確保と火勢鎮圧のために使用することを目的としており、同設備を使用する主な主体は消防隊になる。一方、建築基準法の目的は「建物利用者が避難しやすくするため」であり、排煙設備の使用を想定されている者は、建物利用者である。このことからわかるとおり、それぞれの排煙設備は使用されるフェーズと使用者が異なっているのである。とは言え、排煙という機能はある種明快な所があることから、消防法と建築基準法で互いに重なり合う部分が多分に出てくるわけである。


このように消防法と建築基準法で重なり合う部分は珍しいことではない。他の例で言えば階段通路誘導灯と非常照明の関係にも同じことが言える。重要となるのは、それぞれの法律が何を求めているのかを把握し、いかにその目的を達成するために普段から備えているかということである。


実際に排煙設備を設置する際には、消防局と特定行政庁(地域によっては別組織に業務移管している場合もある)の両方に確認をとる必要がある。一応国による一定の基準は存在するものの、各地方自治体の地理や気候等の条件により、より厳格な規定として強化されている場合があるため、素直に監督官庁の指示に従うのが一番良いだろう。


# 違反をなくすためには

排煙設備の維持管理にあたっては、建物所有者等は、建築基準法と消防法の両法に精通し、適切な法定手続きを行える業者を選定すべきであろう。建築基準法と消防法は、建物利用者の安全を守るという目的の上では多分に被る領域を持っている。しかしながら、両法は規定上はまったく異なるものであり、それぞれの領域の境を正しく認識していないと、不要なコストを支払うことになったり、法令違反することにもなりうる。建物所有者等は、建物設備の維持管理を業者に任せきりにしているケースが殆どであるだろうが、今一度担当している業者に自身の建物設備の設置根拠や点検方法等について尋ねてみることをおすすめする。多くのプロフェッショナルは蓄積された知見により適切な回答をすることができるだろう。しかし万が一、しどろもどろな回答しか得られない場合、建物の維持管理状況について、自分でも見直し、監督官庁に相談する必要があるかもしれない。有事の際に維持管理不足を指摘されたとして、維持管理を業者に任せていようが何だろうが、最終責任は建物所有者等にあることを忘れてはならない。


参考:

建築資料研究社 (編集)『建築基準法関係法令集』建築資料研究社

建築消防実務研究会 (編集)『建築消防advice 2021』新日本法規出版


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