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老人ホームの種類別に見る火災リスクとその対応困難性

更新日:2021年2月5日


老人ホームと火災リスク

(公開 2021/01/12)

 1. サマリー

老人ホームの種類と関連する過去の火災事例まとめ。今後予想される超高齢化社会により老人ホームが増加することに対する懸念と対策について。


 2. 目次


 3. コンテンツ

# 老人ホームの種類と災害事例

老人ホームと一口に言っても、その種類は幅広い。特別養護、グループホーム、有料老人ホームなど誰しもが一度は耳にしたことがあるだろう。しかし、それぞれが何を意味し何が違うのかを知っている人は少ないのではないか。本稿では、それぞれの違いと過去に起きた災害事例について述べる。


まずはじめに、今回紹介するのは主に要介護状態の高齢者が入居する施設に限定する。高齢者向けの居住施設は多種多様に及ぶが、災害リスクが特に大きいという意味で、要介護を対象とした記事である点はご留意いただきたい。


要介護状態の高齢者向け居住施設として、大別すると二種類である。一つは公的機関が運営するもの。もう一つは民間事業者が運営するものである。公的機関が運営するものとして、「特別養護老人ホーム」、「介護老人保健施設」、「介護療養型医療施設」がある。そして民間事業者が運営するものとして「有料老人ホーム」、「グループホーム」がある。また、厚生労働省が発表した各施設の件数の推移は以下のとおりである。


老人ホームの件数の推移

① 特別養護老人ホーム(以下、特養)

老人福祉法に基づき、要介護者の生活施設で主に地方公共団体や社会福祉法人によって運営されるもの。終身にわたって入居でき、公的機関の運営により倒産リスクは少ないが、その分入居条件は厳しく、基本的に在宅が困難となった要介護認定3以上の高齢者でないと入居できない。介護スタッフは24時間常駐しているものの、医療施設ではないため、医師や看護師の常駐は義務付けられていない。そのため、医療体制には限界があることや、入居順番待ちが長い点にも注意。


過去の災害事例として1987年6月の東京都東村山市の火災 (17人死 亡)がある。当然ながら要介護者の自力避難は困難であるため、多大な被害が発生した。これにより、スプリンクラー消火設備の設置条件の強化に繋がった。火災ではないが、新しい事例では2020年7月熊本豪雨に際し、特養の一階が水没し、14名の犠牲が出る事故があった。

火災については上記事故をはじめ、消防法の要請が強化される機会が複数回あり、消防設備の充実度は増した。公的機関が運営するため、脱法運営はされにくく、その点についてはメリットとも考えられる。


② 介護老人保健施設(以下、老健)

介護保険法に基づき、要介護高齢者にリハビリ等を提供し在宅復帰を目指す施設として、地方公共団体や医療法人によって運営されるもの。在宅復帰を目的としていることから、入居期間は限定されるとともに、在宅復帰が不可能と思われる入居者は原則対象にならない。入居者にリハビリを施すことから、医師の常駐に加え、作業療法士や理学療法士といったリハビリ専門職員がいるなど、特養にはない職員の厚さが見られる。


過去の災害事例として目立ったものは見られないが、要介護状態の高齢者が多数入居している点は変わらないため、他の施設と同様災害に弱いことは間違いがない。在宅復帰を目指す比較的元気な入居者が多いため、避難訓練や防災計画を万全に行えば、災害時の生還者数の増加に直結するであろう。


③ 介護療養型医療施設(以下、介護療養)

医療法に基づき、医療の必要な要介護高齢者の長期療養施設として地方公共団体や医療法人によって運営されるもの。介護サービスはあるものの、基本的には医療機関であり、病状を改善させることが目的。そのため、位置づけ的には老健に近い。しかし、医療処置が必須な寝たきり患者なども多く、老健より重症な患者が多い傾向が見られる。医療機関であることから医師及び看護師の数や、老健と同じく機能訓練専門職員の存在など、職員数は手厚い。


過去の災害事例も老健と同じく、目立ったものは見られない。災害事例が少ない理由は、特養と比べ施設数が約1/10ということもあるが、やはり医療機関ということもあり、リスク対策に慣れているということが大きいように思える。寝たきりの人間を扱うことにも普段から慣れており、職員が非常時に動揺しにくいとも言えるだろう。とは言え、医療機関としての火災は2013年10月には福岡市の整形外科医院で10名の死者が出る火災が発生しており、死者の多くは入院患者であったことから、介護療養についても高リスクであることには変わりはない。福岡市の火災は防火管理者が選任されていないなどの法定対策が不備であったことが大きな原因ではあるが。


④ 有料老人ホーム

老人福祉法に基づき、高齢者のための住居として主に営利を目的とした法人によって運営されるもの。サービス体系は様々で、住居を用意し介護サービスは外部の訪問サービスに任せるものや、施設内で手厚い介護と看取りまで完結させる施設など、多種多様である。入居費用に応じてサービスと対象となる入居者が変わるため一概には言えないが、近年の高齢化社会に伴い、有料老人ホームの施設数は急増しており、その勢いは今後も続く見込み。


過去の大きな災害事例として、2009年3月に群馬県渋川市の老人ホーム「静養ホームたまゆら」で死者10名を出した火災が挙げられる。特筆すべきは、本来同施設は有料老人ホームとしての体をなすものの、行政庁へ無届けだった点である。現在、同じように有料老人ホームとして扱われるべきでありながら、無届けのために必要な法規制から免れている施設は依然存在する。その数は全体数の10%弱であり、施設の全体数の増加に伴い、その絶対数は増えている。当然ながらそのような施設は、職員教育にも充分な予算を使うことが難しいので、ソフトとハードともに災害に弱い状況と言える。


⑤ グループホーム

介護保険法に基づき、認知症高齢者のための共同生活住居として、主に営利を目的とする法人により運営されるもの。認知症を患う高齢者に特化しており、認知症の進行予防のため、入居者が共同で家事を行う。介護サービスは受けられるものの、医療目的ではないため、看護師の常駐は義務付けられておらず、施設スタッフの数も多くはない。


グループホームの火災事例は多い。2006年1月長崎県大村市での火災では7名が死亡、2010年3月札幌市北区でも同じく7名が死亡、2013年7月の火災では5名が死亡した。それぞれの事故に伴い、消防法はグループホームに対し、消防設備設置の厳格化のほか、配置人員の増加といった改正を受けている。防災対策の観点から言えば、認知症の高齢者が共同生活をするために火器を使うこともあるものの、人為的ミスを防ぐことには限界もあり、対策は難しい。


# 今後の動向予想

上でも触れたが、以上の老人ホームは今後も増加すると考えられる。なぜなら、高齢化社会の拡大とともに、介護を必要とする高齢者の数も必然的に増加すると考えられるためである。厚生労働省の報告(「介護老人福祉施設(参考資料)」)によると、施設数はこの10年で最大6倍にも増加しており、高齢者の数を想定すれば、今後もこの流れが続くと考えられるであろう。


一方で、老人ホームに入居したがらない(できない)高齢者の絶対数も増えることは間違いなく、入居型ではない、デイサービス等の在宅型介護サービスの拡大も同じく予想される。それに伴い、在宅型介護サービスにおける防災対策についても同じく検討すべき課題が増加するであろう。


参考資料:厚生労働省「介護老人福祉施設 (参考資料)」


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