小規模社会福祉施設の防災対策


社会福祉施設の防災

(公開 2021/06/24)


 1.サマリー

 小規模な社会福祉施設は介護保険制度の始まりとともに全国各地に誕生し、増加の一途をたどっている。入居者が少人数であるため家庭的雰囲気が特徴だ。しかしながら、高齢者を対象とするグループホームの場合、入居者9名の対し深夜帯は職員1名(1ユニット)と非常に厳しい介護態勢である。


 このような中、福祉施設と防災対策の関係はさまざまな災害を契機として対策がとられてきたが、小規模な福祉施設の人的要件等取り巻く環境は依然として厳しい。最近の災害事例を見るとゲリラ豪雨、台風等では職員が少ない深夜時間帯に短時間に災害が発生し、避難できなったというケースが多い。


 近年、災害を防止するための土砂災害防止法、災害対策基本法等、法令改正により避難確保計画の作成及びこれに基づく避難訓練の実施等は義務化され一歩前進の感はある。しかし小規模な社会福祉施設の防災安全を実現するためには、建物の立地条件を踏まえ、防火・避難に関する各種設備の充実である「ハード面の対策」とともに、入居者の実態を踏まえた職員対応のより具体的な対策とあわせ、地域連携等も考慮した「ソフト面の対策」がより重要性であることは過去の災害をみても明らかである。


 2. 目次

# 最近の社会情勢

# 今後備えるべき具体的対策

# おわりに


 3. コンテンツ

# 最近の社会情勢


(1)高齢者等災害時要援護者の増加

日本の高齢化率は1950年以来増加の一途を辿っており2020年9月現在、28.7%と過去最高の数値を示している。今後さらに増加すると予想されている。


(2)高齢者等福祉施設の問題点

  ・ 立地場所のリスク

高齢者等災害時要援護者の施設は増加の一途を辿っているが、これらの施設は水防法及び土砂災害防止法の定める「浸水危険地域」または「土砂災害警戒区域」等に比較的多く設置されているのが実態である。

  ・ 介護する人のリスク

例えば高齢者グループホームの場合、1ユニット9名の入居者に対し職員は最低1名で良く、もし、深夜時間帯の災害発生を想定すると相当の人的パワーの厳しさが予見できる。


(3)災害時要援護者施設等からの災害発生とその教訓等

  ・ 過去の火災

◎長崎県大村市「高齢者グループホーム やすらぎの里」平成18年1月8日午前2時発生。死者7名(入居者9名)負傷者3名 問題点:通報の遅れ、避難口 違反増築(木造)

◎群馬県渋川市「高齢者施設 静養ホームたまゆら」平成21年3月19日22時過ぎ出火。死者10名(入居者15名)負傷者1名 問題点:無届施設、法令違反増改築

◎北海道札幌市「高齢者グループホーム みらいとんでん」平成22年3月13日2時出火。死者7名(入居者8名)負傷者2名 問題点:石油ストーブ付近に可燃物、木造、付近住民は施設の存在を知らず

◎長崎県長崎市「高齢者グループホーム ベルハウス東山手」平成25年2月8日19時出火。死者5名(入居者12名)負傷者7名  問題点:階段2系統あるものの防火戸未閉鎖、自動火災報知設備設置(以後「自火報」という。)がありながら訓練未実施のため初動 対応(通報。消火等)出来ず  

◎北海道札幌市「高齢者住宅 そしあるハイム」平成30年1月31日23時出火。死者11名(入居者16名)問題点:名目は共同住宅だが実際は高齢者施設。食事の提供等を行っており、共用部分には石油ストーブ用タンクが置かれこの付近からの出火の疑い。避難等の訓練未実施もさることながら、管理人不在。


  ・ 過去の水害

水害対策と実態

◎岩手県岩泉町「高齢者グループホーム楽ん楽ん」平成28年8月30日台風10号

同日午前9時には避難準備情報が町内全域に発令、同日午後2時には隣地区には避難勧告が発令されたものの当該地区には発令されず、午後6時には周辺地区の停電が始まり、防災テレビ電話も使用不能に。午後10時には町内全域で停電状態となった。死者9名(入居者9名)問題点:避難準備情報発令とともに避難準備を開始すべきところを安易に考えた。避難準備情報発令時から介護職員の応援体制をとる体制ではなかったため、避難勧告発令時には職員が参集できない事態となった。



◎熊本県人吉市「特別養護老人ホーム千寿園」令和2年7月豪雨

3日から降り始めた雨で7月21日現在、熊本・千寿園では14名の死者(入居者60名)被害は全国26県に及び、全国の死者78名行方不明者6名など広範囲に及んだ。問題点:エレベーターがなかった。3日午後5時には村から電話により「避難準備、高齢者等避難開始」が伝えられたが、職員へは伝えられず夜間は通常の5名体制で勤務した。近所住民との連携は日ごろからあったものの、これまで経験したことのない雨量により、隣接する小川からの急激な水の浸入により2階への緊急避難が間に合わず死者が多数発生した。

熊本 令和2年7月豪雨

【画像:共同通信】

  ・ 教訓

ハード面:

消防用設備等の未設置、階段等の防火戸の維持管理不適等、停電時を想定した階段以外の安全な避難設備等の早期設置

上記火災のうち、殆どの上記施設は自火報の設置がなく火災発生を認識するまで相当の時間が経過したものと思われる。また、階段の防火戸が閉鎖されなかったため、上階への火・煙のまわりが早かった。これらの相次ぐ火災を受けて現在は自火報、スプリンクラー設備とも高齢者等福祉施設では原則として規模に関係なく設置が義務化された。

水害に関しては、複数の避難手段の確保が必要ではないかと思われる。エレベーターが未設置であればこれに代わるもの(停電時でも油圧等で安全に避難できるもの。電動の場合は非常電源により降下できるもの等)の検討。


ソフト面:

消火・通報・避難等、訓練未実施 近隣との応援協定等による連携等、避難指示等に関する情報の早期共有化と全職員等への周知徹底方策。特に夜間を想定した具体的計画とともに、計画に基ずく具体的訓練は必要不可欠である。


# 今後備えるべき具体的対策

上記の問題点とハード面、ソフト面の対策とともに次の対策を検討していくことが重要と考えられる。


 ① 今後さらに増加することが十分予測可能であり、介護職員の不足も危惧されている中で、介護福祉士試験、介護福祉学科等において防火・防災に関する単元の充実及び必須化が必要ではないかと思われる。国としては、介護職員は海外からも受け入れる方向で進められており、日本の防火防災に関して基本的事項の早期徹底が安全・安心の基礎作りとして重要である。


 ② 小規模の社会福祉施設(特に高齢者グループホーム等)は介護保険制度の発足時から簡単な大型民家を改造したようなものでも施設として認定された経緯がある。このため特に、避難に関しては階段は1系統でもよく、消防法的には使用が困難な「避難梯子」や「避難ロープ」等でも2方向避難の一ツールとして認められた。しかしながら、実際は入居者はもちろん、施設職員も非常時の使用は困難と思われる。このことから、早期に安全な避難器具・設備等について再検討が重要と思われる。


 ③ 災害発生時の避難場所として「福祉避難所」が全国の各自治体において設置・検討が行われている。この中で、小規模でも福祉避難所として指定せざるを得ない程「要配慮者・要介護者」が増加傾向にある。このため、施設としては市区町村と連携し、必要な施設設備等の整備に着手していくことが課題ではないかと思われる。さらに、各種補助金等の制度の検討も重要課題の一つである。 


# おわりに

 地球全体の温暖化とともに、海水温の上昇等による激甚災害の増加が近年特に目立つようになってきた。このような時代をいかに安全に乗り切れるかどうかは、過去の災害から多くを学び、その地域の災害史を踏まえた上で、最近のIT技術の活用等を駆使した早めの対策にかかっていると思われる。さらに、その対策はハード・ソフト両面の具体策が必要といえる。



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