top of page

老人ホームと水害

更新日:2021年2月5日


老人ホームと集中豪雨、台風

(公開 2021/01/18)

 1. サマリー

大規模災害時、高齢者の避難と搬送には時間と人手が必要なため、初動の遅れが大きな被害をもたらす場合がある。そうならないために、施設の責任者は、職員が確実に実行できるレベルでの防災マニュアルを策定する必要がある。一方で、入居者やその家族も、施設がどの程度防災対策ができているのかを自身で確認する等の手段は講じるべきである。


 2. 目次


 3. コンテンツ

# 集中豪雨や大型台風がもたらす老人ホームへの影響

2020年は大規模な集中豪雨や大型台風が日本列島を襲った。2020年が特別だったかと言えば決してそうではなく、水害による被害は年々大きくなっているように感じられる。その意味では、2021年もこの傾向が続くと考えられ、我々一人一人ができる対策を講じて、日本全体の被害を少しでも減らして行かざるをえないだろう。


言うまでもなく、高齢者福祉施設は水害に弱い。高齢者が逃げるスピードはどうしても遅くなってしまうためだ。特に近年の水害は、河川が氾濫危険水域に達するスピードが急速だとよく言われる。これは上流から大量の雨水が流れてくるためであり、少し前までは問題なくとも気づいたときには手遅れ、というパターンが非常に多い。


たとえば令和2年7月豪雨では特別養護老人ホーム「千寿園」が濁流に飲み込まれ入居者14名が命を失った。避難についての計画は策定されていたが、職員が避難を決め、実際に動き出した時には人も物資も足りず、施設内全員の避難ができなかった。


急いだ時には既に遅いため、いかにして急いで逃げる状況そのものを作らなくするかが重要である。「千寿園」の事故は、我々にそのことを改めて考えさせる事故となった。


# 防災マニュアルの具体的実効性

災害で被災する恐れのある福祉施設や医療機関は、水防法と土砂災害防止法により「避難確保計画」の作成を義務付けられている。内容は避難経路やその際の人員についてであるが、避難の成功を担保するには不十分な内容で終わっているケースが珍しくはない。「千寿園」もそのパターンである。もっと実行力のあるマニュアルの作成は必須であろう。避難に限らず、備蓄やトイレ、ハザードマップの確認、職員の在不在時の対応、各種警報発令時にとる段階的な避難体制など、定められることは事前に定め、それを誰が見ても同じ解釈ができるように作っておかなければ、いざというときには役に立たない。災害時の慌ただしい状況での判断は難しく、そこに時間をかけてしまうと、最終的には大きな被害を出すことにも繋がる。防災マニュアルは、具体的に施設職員がそのマニュアルを実行可能なレベルまで落とし込めているかどうかが重要である。実行力のある防災マニュアルの策定とはすなわち、平時のうちに、いかに有事の負担を減らしておくかという仕事に他ならない。


# 入居者とその家族は老人ホームの入居に際し何に注意すべきか

一方、老人ホームの入居を検討する側は何に気をつければよいのか。先にも触れたことであるが、介護を必要とする人間は容易には逃げられないため、いかに逃げざるを得ない状況そのものを作らないかが重要である。


特養に限った話ではないが、公的機関が運営する老人福祉施設は、基本的に金銭的に余裕のない高齢者のために運営されている側面があり、必然的に地価の安い場所に建設されるきらいがある。そのため、場所によって土砂崩れや河川氾濫に巻き込まれるリスクがあることは留意すべきであろう。


それを踏まえて、施設の利用者側は、そのリスク低減のために施設の責任者がどれだけの災害対策を準備しているかを確認すべきである。具体的には、入居を検討する老人ホームにその点を問い合わせるといいだろう。充分な準備をしている施設は、具体的な方策について回答できるはずである。


また、各自治体が発行しているハザードマップを確認し、施設の立地条件について検討することもおすすめする。冠水危険や河川氾濫のリスクついて情報が得られる。


入居する老人ホームが正しく行政の認可を受けているかどうかも重要なポイントである。無届けの理由は、運営側の資金的な問題が主なので、そのような施設は災害対策について充分な予算を費やしていない可能性が高い。


とは言え、老人ホームに完璧な防災対策を施そうと思うと膨大な資金が必要となり、その資金は入居者の費用としてのしかかるため、現実的に実行するのは難しい側面があることも否定し難い。増加する要介護人口に対し、介護職員の数が足りない状況である。老人ホームを運営する事業者も充分な対策を取りたくても取れない事実も見過ごすことはできない。結局の所、良いサービスを受けるかは費用との相談になってしまうが、必要な防災対策がなされているかどうかについて施設の運営事業所に確認してみることは必須であろう。


参考資料:国土交通省「要配慮者利用施設の浸水対策」


関連:

「老人ホームの種類別に見る火災リスクとその対応困難性」


0件のコメント

最新記事

すべて表示
bottom of page