老人ホーム防災に何が求められているか


(公開 2021/08/10)

 1. サマリー

老人ホームにおいて災害を防ぐ、また被害を最小限に抑えるために何が必要かを検討することは喫緊の課題である。長崎グループホーム火災以降老人ホームの防災対策の強化が図られたが、老人ホームでの災害は後を絶たない。そのような状況を見ると、老人ホームの防災にはあらゆるリスクの想定、日常的な訓練の実施、指揮系統の明確化が求められる。


 2. 目次

# はじめに

# 老人ホーム防災における契機-長崎グループホーム火災

# 老人ホーム防災において求められること


 3. コンテンツ

# はじめに

全国各地で地震、水害などの自然災害が多発する中、老人ホームをはじめとした老人福祉施設における防災について再考させられる機会が増加している。

非常事態においては、自力で歩行することが困難なことも少なくない老人の生命・身体に対するリスクが一層高くなるのは当然である。ましてや、老人が集団生活する老人ホーム内で重大な事故が発生する可能性が高いのは言うまでもない。このように潜在的に高いリスクを抱える老人ホームにおいて災害を防ぐ、また被害を最小限に抑えるために何が必要かを検討することは喫緊の課題である。


# 老人ホーム防災における契機-長崎グループホーム火災

老人ホーム防災を見直す契機となった事件として、平成25年2月の長崎市認知症高齢者グループホームによる火災を紹介する。

事件の概要は、グループホーム「ベルハウス 東山手」で火災が発生し5名の死者が出たというものである。当該事業所については、介護保険法に基づく指定・指定更新時の防火等設備の審査について書面審査のみ行っており、提出書類や建築部・消防局との情報共有が不十分であったことなどといった問題点がのちに明らかになった。

事業所側の主な対策不足事項としては、事件発生当時に職員が1名のみしかいなかったこと、スプリンクラーを設置していなかったことなどがあげられ、設備面での利用者の安全性の確保への配慮が十分でなかったと言える。行政側についても、建物の構造や防災設備の設備基準について曖昧な表現を使用していた、建物の構造等への認識が甘く排煙窓や非常用照明の不備などについて見落としがあった、などといった落ち度が明らかになった。また、当該老人ホームが斜面地に建っていたため救助が遅れた点なども指摘された。


この事件をはじめとする各地の老人福祉施設での火災を契機として、老人ホームでの防災対策は大きな転機を迎えることとなった。具体的には、消防法令に以下のような改正が行われ、老人福祉施設での防災対策の強化が図られた。

  • 社会福祉施設等の用途区分(消防法施行令別表第1)の見直し

  • スプリンクラー設備の設置基準の強化

  • 自動火災報知設備の設置基準の強化

  • 消防機関の検査を受けなければならない防火対象物等の見直し

  • 消防機関へ通報する火災報知設備等の基準の見直し

  • 特定小規模施設省令の見直し

また、火災時の従業員教育、効果的な避難訓練の実施、地域コミュニティや消防機関など近隣との協力体制などについても見直された。

参考:

https://www.city.nagasaki.lg.jp/jigyo/380000/381000/p023616_d/fil/pt_houkoku2.pdf

https://www.pref.miyazaki.lg.jp/choju/kenko/koresha/documents/000206613.pdf


# 老人ホーム防災において求められること

長崎グループホーム火災を契機に老人ホームでの防災が大幅に見直されたが、令和3年現在でも老人ホームでの防災対策不足による事故が後を立たないのが現実である。

たとえば、令和2年7月の豪雨で熊本県球磨村の特別養護老人ホーム「千寿園」にて14人が犠牲となった事件では、浸水想定は盛り込まれていなかった、年2回の避難誘導訓練でも河川の氾濫は想定されていなかったなどの避難確保計画の不備が指摘されている。また、避難情報が職員に伝えられなかったなど計画が生かされていなかったと思われる点もある。

当該事件は長崎市グループホームとは異なり水害ではあるが、どちらも最悪のケースに対する想定が甘かったがゆえに起きてしまったという点では共通している。


過去の事件から、老人ホームでの防災については以下が重要なポイントと言えるだろう。

  • あらゆるリスクの想定

防災においては「いつでも最悪のケースに対応できるようにする」ことが求められる。斜面に建っている・河川沿いにあるなどの地形的なリスク、洪水・土砂災害のおそれなど、施設に発生しうるリスクを全て洗い出した上で対策を考えることが求められる。ハザードマップなどを活用して想定しうるリスクを消防設備や避難確保計画や避難訓練に反映することで、非常事態でも効果を発揮する防災策が生まれる。

  • 日常的な訓練の実施

避難確保計画を入念に作成しても、いざというときに実践できなければ意味がない。日ごろから避難訓練を定期的に実施し、従業員・入居者ともに避難行動に慣れることが重要である。従業員は、火災通報装置や消火器の使用方法、避難経路や避難場所の選定方法などを熟知する必要がある。入居者にも、洪水・地震・火災など様々な避難のパターンに慣れておくことが求められる。

  • 指揮系統の明確化

千寿園の事例をはじめ、非常事態での指揮系統が不明確だったために死傷者が出てしまったケースは少なくない。施設庁などの責任者や防災担当者がいない間に非常事態が起きることも考えられるので、第2,3候補くらいまで指揮代行者を立てておくことが必要である。また、班単位で役割を分ける、職員別の役割分担を明確にし具体的な任務内容を定める、その内容を職員が実施できるように訓練することも重要である。


以上のように、老人ホームの防災対策は消防法など関連法令を遵守するだけでは足らず、日ごろから最悪のケースを見据えて動けるように準備することが最重要課題と言える。そのために、時には福祉や防災に関して専門的な知識を有する専門家等の助力を得ながら、防災に対する情報にアンテナを張り、防災に対する意識を日々アップデートすることが重要である。



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