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防火管理者を外部委託する場合に気をつけなければならないこと


防火管理者の委託

(公開 2021/04/03)

 1. サマリー

防火管理者は一定の条件さえ満たせば外部委任することが可能である。しかし、委任できるのは防火管理の「業務」であって、最終的な「責任」まで委任できるものではない。すなわち、悪質な委託業者に依頼してしまえば、自身の責任を問われ、逮捕されることにもなりかねない。そうならないために、防火管理者を委任する際には、消防の制度と実務に詳しく、確実に業務を執行する業者の選定が必要不可欠であろう。


 2. 目次


 3. コンテンツ

# 防火管理者の外部委託とは

一定規模以上の建物やテナントには消防法の要請により防火管理者の選任が必要となってくる。防火管理者はその職に就くために、定められた講習を受講し、専用の資格を得る必要があるが、建物等管理者の事情により防火管理者が選任できない、もしくは選任はできても業務を執行できない、そのような問題が発生する場合がある。そのような時、消防法ではある一定の条件を満たした場合、防火管理者を外部委託することができることが明文化されている。


現実的な話、防火管理者を進んでやりたがる人間はほぼ皆無であろう。消防法に基づき適切な防火防災管理を行えば、災害が発生した際にその被害を最小限に食い止めることは可能であるが、建物所有者等にとっては、それで顧客が増えるわけでもなく、インセンティブとしては弱い。それだけではなく、防火管理者という職は明確に責任を問われる職であり、その職務執行を疎かにした場合は、法令違反として逮捕されるケースも起こっている。まるで貧乏くじのような、なり手のいない防火管理者を空席のまま放置するのは消防としても放ってはおけず、それならば外部委託をという趣旨で設けられている制度が、防火管理者の外部委任制度である。


防火管理者の制度や業務内容についてわからない方は、このコンテンツを読む前に、別コンテンツ「防火管理者に選ばれたら何をすべきか」を参照していただければ、より理解が深まることになるため、まずそちらを一読していただきたい。


# 委託の条件

さて、委託の条件についてであるが、こちらは消防法施行令第3条第2項 (2),(3) 及び(4)、そして消防法施行規則第2条の2 に規定されている。それについて、まず防火管理者を委任できる建物要件にあっては以下のとおりである。

防火管理者の委託が可能な建物要件

順に解説していこう。

まず①であるが、これは文字どおり、共同住宅(飲食店やクリニックなど、複数の使われ方をしている建物の共同住宅部分含む)であれば、どれだけ大きなマンションであろうとも防火管理者の委託ができるということを意味している。実際、防火管理者の委託を行う建物の大半がこの①共同住宅である。


次に②であるが、これはオーナーが複数のテナント等を経営している場合、それらをまとめて委託できる、というものである。


③については少々解説が必要であろう。ア、イ及びウのいずれかに該当するとあるが、これは、建物の用途が共同住宅でない場合、防火管理者を委託するには収容人員が赤字で表示された人数未満の規模でないとならない、ということである。そもそも、防火管理は建物1棟ごとに行われる必要がある。なぜなら、建物の大部分が適切に防火管理を行なっても、建物の一部が不適切な管理を行っていれば、そこから被害は拡大し、建物利用者を含めた建物全体で被害が大きくなってしまうからである。そうならないために、防火管理者が必要かどうかは建物1棟ごとに判定されるのが通常で、必要と判定されれば、該当建物内に含まれる全てのテナントごとに防火管理者を一人ずつ設置しなければならないことになっている。この場合、建物で防火管理者が必要とされればどんなに小さいテナントでも防火管理者を設置することになるが、収容人数の多いテナントは、その部分の防火管理者が委任できない、ということを③項目は意味している。人数制限が厳しいほど、防火防災上危険が高いと見なされているが、消防法で最も危険な建物用途とみなされている「自力避難が著しく困難な者が入居する施設」、すなわち老人ホーム等の社会福祉施設等であっても、収容人員10人未満のごく小規模であれば、法律上は防火管理者の委任ができる。


最後に④であるが、これは自治体が所有している建物で運営は民間であるものや、不動産を運用する投資ファンドが所有する建物等を指し、建物の所有者と管理者の連携が困難な場合のことである。


これらの条件に当てはまる場合は、防火管理者の委託が可能となる。とは言え、防火管理者は責任を伴う軽んじられない制度であるものの、外部委任のコストとリスクを鑑みれば、自分たちで防火管理を行うという判断を下す方々も多い。


なお、この規定は各自治体により厳格化することが可能であるため、実際に防火管理者の委託を行う場合には、まず管轄消防局に確認し、当該建物の防火管理者委託が可能かどうか確認した方がいいであろう。また、条件に当てはまったとしても、防火管理は建物を所有もしくは管理している者が行うことが通常であるから、金を積めば必ず委任できるというものでもない。管轄消防局に「委任する必要がない」と判断されてしまえば、委任はできず、自分たちで何とかするしかないという点には注意していただきたい。


# 委託業者を選ぶポイント

とは言え、消防署としては、第一のプライオリティーは「建物が適切に防火管理されていること」であるから、委託という手段を用いてまで防火管理を執行しようとする建物所有者等の願いを何が何でも否定する、ということはあまりない。そうなると、面倒な防火管理業務を外部に委任し、自身はより生産性の高い仕事に従事したり、防火防災に関わる労務時間から開放されたりということが現実味を帯びてくる。ここでは、実際に防火管理者を外部の業者に委任するにあたり、業者を選ぶポイントを挙げていく。


① 消防法に精通

まず、当然のことながら消防法に精通していることである。防火管理者の業務は消防計画の作成から、年に1〜2回以上の消防訓練の企画及び運営、建物に備わっている消防設備の点検を半年に1回行い、定期的に消防署にそれを報告する必要があるなど、消防法を知っていなければできない仕事も多い。消防署が立入検査をする建物を選ぶ際に参考にするポイントとして、「建物の防火管理が適切に行われている記録が消防署に残されているか」という点が大きいため、消防署に睨まれないように、防火管理業務を消防法に則って行う必要がある。一部のマンション管理会社は、実際の防火管理に関わる法律を正しく把握しておらず、防火管理業務を気にかけない名義貸しのような行為をする会社もあると聞くので、そのような業者に安い料金で依頼することのないようにした方がよい。


② 現場業務に精通

また、消防法に精通していたとしても、実務レベルでは当然消防法に記載されていなかったり、防火管理講習で教わらないことにも多数直面する。災害発生時の対応がその最たるものであり、そのような際、現場レベルでの高い知見と業務執行能力を有し、問題が発生した際の適切な解決案を依頼人である建物所有者等に提供することのできる業者を見つけられるかは重要なポイントとなってくる。


③ 確実に業務を行う

そして、防火管理の業務を確実に行う業者の選定は不可欠であろう。上述のとおり防火管理者の委任は法律で認められた権利である。しかし、認められているのは、防火管理の「業務」に関わるものであり、防火管理を適切に行わなければならないという「責任」からは解放されない。消防法による逮捕者が出るケースでは、防火管理の業務執行に問題があったとして、業務の執行者である防火管理者とともに建物所有者等も同時に逮捕される場合が多い。建物所有者等は業者に任せていると主張しても、法律はその言い分を認めないのである。そのため、依頼を受けた業務を「確実に」実行する、実直な業者を選定することが必要となるであろう。


# 「責任」は委任できない

繰り返しになるが、防火管理者の「業務」は委任できても、「責任」は委任できない。これは、消防法にも記載されている曲げられない事実であり、何らかの災害により被害者が発生した建物では、建物所有者等の責任は必ず精査されることになる。建物所有者等は消防法に明るくないことが多いため、自身の建物内の維持管理状況を適切に報告及び助言してくれるような業者でなければ、防火管理の最終責任者としての不安は拭えないであろう。間違っても「逮捕」されてしまうことのないよう、委任する業者選びについても慎重を期さなければならないと言えよう。


関連:

コンテンツ「消防法における建物の類別と収容人員の算定方法」

コンテンツ「防火管理者に選ばれたら何をすべきか」





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