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ニュース「消火設備誤作動でCO2中毒か マンション地下駐車場で作業員4人死亡、1人重体 東京・新宿」


東京都新宿区で二酸化炭素消火設備事故

(公開 2021/04/16)

情報:東京新聞


 1. サマリー

東京都新宿区で二酸化炭素消火設備が誤作動し少なくとも4名の生命が奪われる事故が発生した。二酸化炭素消火設備を起因とする事故は続発しており、今後国は何らかの対策に動く可能性がある。消防設備業者や二酸化炭素消火設備を設置している建物責任者等は、二酸化炭素が恐ろしい物質であるという自覚を改めて持つとともに、そのことを同僚や出入り業者に対して周知することが重要である。


 2. 目次


 3. コンテンツ

# ニュース概要

4月15日午後5時ごろ、東京都新宿区にあるマンションの地下駐車場で二酸化炭素消火設備が作動し、現場にいた男性作業員4名が死亡し、1名が現在意識不明の重体となる事故が発生した。現場では腐食していた天井の石膏ボードの張替え作業が行われており、犠牲者はいずれも作業員。二酸化炭素消火設備を誤って作動させたことによりシャッターが閉鎖し、二酸化炭素が充満したとみられている。


# 連続する二酸化炭素消火設備に起因する死亡事故

当方コンテンツではこれまでに二酸化炭素消火設備に関する死亡事故を度々取り上げてきた(コンテンツ「ニュース:名古屋市内のホテルで二酸化炭素消火設備の事故により1名が死亡」及び「ニュース:東京新橋で二酸化炭素消火設備が誤作動、作業員2人が死亡」参照)。過去の死亡事故についてここで深く紹介するのは避けるが、日本史上初めてのペースで二酸化炭素消火設備に関する死亡事故が続いている状況である。それ以前にも二酸化炭素消火設備による死亡事故は時々ではあるが発生していたが、このペースは異常である。


# なぜ事故は起きるのか

二酸化炭素消火設備は燃焼の三要素、すなわち「可燃物、点火源、酸素供給源」のうち、酸素供給源を断つことにより効率的に消火することができる消火設備である。火災を感知する、もしくは手動起動装置により二酸化炭素消火設備は作動し、大量の二酸化炭素を放出することで酸素濃度を下げる。この仕組みからわかるとおり、消火には効果的だが、人間が巻き込まれるとあっという間に窒息することになる。また、消防用設備は設備に付随する感知器が火災を感知すると、それに連動して防火扉が閉まる構造を採用している。これにより、別区画へと容易に延焼することを防ぐとともに、二酸化炭素消火設備であれば、二酸化炭素を効率的に火点室に閉じ込め、その消火能力を遺憾なく発揮できることとなる。報道にある「シャッター」とは防火扉のシャッター型、「防火シャッター」であるとみて間違いないであろう。防火扉であれば、閉鎖しても押せば容易に開放できるが、重たいシャッターとなるとそうはいかない。パニックになった頭では脱出路を咄嗟に見つけることは一般人にはほぼ不可能であろう。


二酸化炭素消火設備構造

【引用:オーム社】


この図を見てもらえばわかるとおり、二酸化炭素消火設備は複雑かつ広範囲に広がる構造をしており、今回の事故のようなリフォームの業者であればどこかしらに接触する機会は非常に高いと言える。ただ、手動起動装置は通常操作箱と言われる頑強なケースに入っているため、軽い接触程度ではびくともしない。可能性が高いのはリフォーム中に何らかの煙が発生し、感知器を作動させてしまったことであろうか。これであれば、きちんと点検が行われている消防用設備であれば、自動的に二酸化炭素が噴出されることになる。もちろん、警報音や二酸化炭素噴出までの時間は設けられている。しかし、二酸化炭素について詳しい物でなければ、機敏に動くことは難しいのが実態ではないか。


# 消防法改正の公算が高い

今回もまた、尊い人命が奪われてしまったことについては非常に残念でならない。そして、このような重大事故が続いている状況を鑑みると、国にも何らかの動きがあるとみてよいであろう。具体的には消防用設備を管轄する消防法の改正、または防火シャッターを管轄する建築基準法の改正、もしくはその両方が考えられる。


2020年12月、2021年1月に発生した同種事故では、犠牲になったのは消防設備の点検作業員であった。実際の所、点検の手順を適切に守っていれば点検中に二酸化炭素消火設備を誤作動させても二酸化炭素が大量に噴出されることはない。そのため、消防設備業界ではこの事故は点検に不慣れな素人かそれとも自殺かといった話がされたほどである。しかし、今回は消防設備とは関係のないリフォーム業者が犠牲になっている。これまでの犠牲者数及び事故が連続していること、そして犠牲者の性質を鑑みると消防法改正の可能性は非常に高いと言えるであろう。


消防法は大きな事故があるたびに、規制を厳格化する方向で改正し続けている。これまでに消防法が改正されたのは、裏では原因が明確な犠牲者の存在があるのである。今回の事故も調査が進むにつれて原因が明らかになっていくだろう。その上で、国がどのような動きを見せるのかは消防用設備に関わる者として当方も注視しなければならない。


また、法改正の前に、同種事故防止として、リフォーム業者等へ注意喚起を促すための通達が消防行政内から発出されるはずである。これに基づき、日本各地の消防局の動きが活発になると想定される。地下駐車場や工場のような二酸化炭素消火設備が設置されがちな建物に出入りする業者や、同設備を設置している建物を所有する関係者は何らかの接触が消防局からあると考えていたほうがよいであろう。消防職員による緊急査察が入る可能性も濃厚なので、建物関係者はこれまでの記録の整理や設備状況の把握に努めていただきたい。


最後に、二酸化炭素は容易に人を死に至らしめる恐ろしい物質であるという点を充分に理解し、二酸化炭素消火設備に関わる業者や建物関係者はこれ以上犠牲者を出すことのないように最大限の注意を払って職務にあたっていただきたい。


参考:

オーム社「ラクラクわかる! 3類消防設備士集中ゼミ」


関連:

コンテンツ『ニュース「名古屋市内のホテルで二酸化炭素消火設備の事故により1名が死亡』

コンテンツ『ニュース「東京新橋で二酸化炭素消火設備が誤作動、作業員2人が死亡」』



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