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マンションの水害に備えるために


マンション水害・浸水

(公開 2021/04/16)

 1. サマリー

集中豪雨や大型台風の影響により、水害とは無縁と思われていたような高級マンションや大型複合施設でさえ大きな被害をもたらすようになってきている。頑丈な建物であれば、濁流に飲み込まれても主要構造部は無事なこともあるが、各種設備や住民の財産は損害を被ってしまうことになる。本記事では、マンションの水害対策についてまず初めにできること、そして重要となるマンション住民間での取り組みについて記載されている。マンションの所有者やマンション管理組合、住民の方で、浸水に関して心配を抱えている方は一読して具体的な対策を立てていただきたい。


 2. 目次


 3. コンテンツ

# マンションの浸水被害に関する現状

近年、毎年のように日本各地で歴史的な集中豪雨や大型台風が大きな爪痕を残すようになってきている。強固なビルは濁流に流されること自体は稀であるものの、浸水が引いた後でも様々な形で被害を発生させている。2019年10月に発生した、台風19号による被害は記憶に新しい。高級住宅地と言われた武蔵小杉では大きな浸水被害がもたらされ、一部機能を停止するマンションが目立った。一部のマンション住民は市の対応に過失があったとして、市を提訴する動きを見せている。裁判では市が被害を予見できたのかできなかったのかが争点になると見られているが、いずれにせよ、簡単に予見しうるレベル以上の豪雨が近年日本をはじめ世界中で発生しているという状況であるのは間違いなさそうである。


そもそも、日本の都市の多くは河川の氾濫により醸成された沖積平野に立地していることもあり、もともと水害を受けやすい宿命を背負っている。当然ながら都市には人口が集中するため、一度水害が発生するとその影響も大きなものになってしまう。マンションの所有者や居住者は、ここで一度改めて自分たちの生命や財産を守るためにも、当該マンションの抱えるリスクや水害対策について考えるべきであろう。


# 起きがちな被害

実際の所、集中豪雨等によりもたらされるマンションの被害はどのようなものがあるのであろうか。よくあるケースは次のとおりである。


・建物外部及びマンション内の排水の逆流や溢水により、建物内に浸水する。

・地下部分が水没し、地階の住居及び地下駐車場等にある財産が著しい損害を受ける。

・電気系統及びポンプ等の水没による、建物機能の一部停止。

・エレベーターの使用不可。

・断水。

・インターネット設備の水没による、通信被害。

・以上被害に伴う修理・清掃費用の発生。


これらの被害が想定されているわけであるが、いずれも目を瞑って無視できる内容のものではなく、その被害は甚大である。また、平成11年には、 福岡県博多駅周辺のビル地下一階で、東京都新宿区の住宅地では地下室で、 それぞれ1名が水没した地下室に閉じ込められ死亡する事故が発生するなど、人命危険まで発生することとなる。


当然これらの事故が起きた物件は資産価値が暴落するとともに、事後処理のためのコストも膨大になることから、建物所有者等は考えうる全てのケースにおいて備えをしておいたほうが良いであろう。


# 具体的な水害対策

建物所有者やマンション住民の取りうる具体的な水害対策を紹介する。対策は当然立地及び構造によってその対応が変わってくるが、ここでは一般的にどの物件でも検討すべき対策について述べていく。


① ハザードマップの確認

ハザードマップ

【画像:足立区】


まずはじめに、当該マンションの水害リスクを知るためにハザードマップを確認すべきである。ハザードマップとは、各自治体が独自に土地の災害リスクを算定し、それを視覚的に分かりやすくまとめた地図のことで、自治体のHPから確認できるほか、住民向けに配布している自治体もある(ハザードマップの詳細は、コンテンツ「ハザードマップとは」を参照していただきたい)。


立地が海抜の低い場所であれば水は溜まりやすいし、海の近くであれば津波のリスクは当然避けられない。ハザードマップを確認することにより、当該マンションに具体的にどれほどの水害対策が必要であるかが朧気ながらに見えてくるだろう。この情報をもとに、より具体的な対策を検討することが無駄がなくおすすめである。


② 土のう

土のう

一番ポピュラーかつ簡単な対策が土のうによる浸水対策である。マンションの必要な箇所に応じて適当な数を用意するといいだろう。


なお、袋に砂を詰める際は必ず半分から6割くらいの量に収めること。多く砂を入れればそれだけ重くなって効果がありそうな気もするが、実際には柔軟な砂の動きが阻害されて隙間ができ、障壁としてあまり役に立たなくなってしまう。


土のう袋への砂入れ

【画像:国土交通省 中部地方整備局】


また、近年では簡易的な対策として水のうやプランターを使用して簡易的に水をせき止める方法が認知されつつある。ただし、これらはあくまで応急的な対策の側面が強く、必要スペースに対して障壁を作ることができないこともあるので注意していただきたい。


多くの自治体では近隣住民が自由に使用できるように、土のうを公園などにまとめて設置する「土のうステーション」を設けている。自治体HP等で土のうの所在を確認し、建物付近にあればその活用を検討するのもよいだろう。また、住民の必要に応じて土のうの配布を行う自治体も存在する。しかし、こういったサービスは利用者が多くなれば享受できない可能性も否定はできないため、万全を期すためには自身で用意しておくべきであろう。いずれにせよ、マンション防災を検討する上では自治体からどのようなサービスが受けられるのかは第一に確認することをおすすめする。


③ 止水板

止水板

【画像:文化シヤッター株式会社】


土のうほどの柔軟性はないものの、土のうのような隙間はできず、適材適所に配置すれば効果的なのが止水板(防水板)である。防水シートに自立するスタンドを装着しただけのものから、設置工事を必要とするものまで幅広いラインナップがあり、ピンキリな分野である。板状であるため、本体部分から水が侵入することはないが、壁との本体との間に隙間ができがちである。また、使用方法には癖のあるものも多く、使い方を熟知するとともに、定期的に使用可能かどうか点検していないと、いざという時に使用できないということもある。実際に、平成12年9月の東海豪雨では、市営地下鉄桜通線の野並駅に水が流れ込み、格納された止水板を職員が設置しようとするものの設置することができなかった事例もある。


止水板の購入を検討するのであれば、メーカーや販売店と相談した上で、本当に自身のマンションで使用できる止水板をよく検討して購入する必要があるだろう。


④ 備蓄倉庫をつくる

土のうをはじめ、あらゆる災害対策用品を収納する倉庫を設けておけば、いざという時に役立つ。土のうや止水板等は1階に保管するのが、有事の使用状況を鑑みると望ましいが、それ以外の非常用備蓄品は2階以上に格納できればベターである。


⑤ 防災マニュアルを作成し、緊急時に活動する組織をマンション内に作る

水害だけに限った話ではないが、マンションに被害をもたらしうる災害に直面した時、具体的に誰が何をするのかまで落とし込んだ防災マニュアルを作成するとよい。仮に浸水対策だけに限って見ても、土のうを誰が用意し、誰が積むのか。一人では厳しく、人数が必要であろう。どの程度まで浸水リスクが高まったら活動を開始し、誰がそれを呼びかけるのか、担当者がその時当該マンションにいなかったらどうするのか等、決めなければならないことは多い。防災マニュアルを作ってみればわかるが、文章化することで問題が浮き彫りになり、組織的にかなり大がかかりに計画を立てておかなければ有事の際に有効な対策は取れない。また、防災マニュアルを作るためには判断しにくい箇所も多いはずなので、必要に応じて自治体の防災課や防災マニュアルの策定支援を行う業者に相談するなどしたほうがよいであろう。


# まとめ

災害による被害を防ぐためには、事前に準備をしておくことが鉄則である。自身のマンションの災害リスクを正しく把握する他、有事の際に発生しうる問題をどのように対処するのか、できるかぎり具体的に準備することである。特にやはり浸水被害で言えば低所、すなわち1階部分や地階部分の被害が大きくなることから、その辺りの対策からまず初めてみると良いだろう。そして、最終的にやはり重要となるのはマンション内住民での連携である。自分たちの安全は自分で守るという自助の精神のもと、有事の際の係を決めておき、お互いがお互いをカバーし合う。そのような取り決めができていれば、必然的に住民の防災意識は高まるし、日常的に側溝の清掃を行う等の活動にも繋がりやすい。いざという時のために、防災への取り組みを住民全体で共有し合うマンションであれば、住民の安心感も生まれ、マンション自体の人気も上がっていくことであろう。


参考:


国土交通省「建築物における電気設備の浸水対策のあり方に関する検討会」

国土交通省「地下空間における浸水対策ガイドライン」

国土交通省「家庭で役立つ防災」

国土交通省 中部地方整備局「水防技術研修テキスト」

文京区「浸水防止に備えて水防用土のうをご利用ください」



関連:

コンテンツ「ハザードマップとは」



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